スズコ、考える。

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あさイチの発達障害・ABAセラピー特集に思うこと

あさイチのABA特集へのモヤモヤ

あさイチ発達障害をとりあげる、期待をしながら見たその特集は、結果として色々なモヤモヤをわきおこさせたままで終わってしまいました。



悪いところばかりではけしてなかった

内容は全体として悪い流ればかりではけしてなかったのです。

ご自身がADHDだと公表されているゲストの栗原類さんがお母さまの育児について、育児は長く続けなければならないものだからメンタルを良い状態に保つ為に自分自身の時間を大事にする必要がある、と類さんをおばあさまに定期的に預けていたことについてお話されていたのはとても共感が持てました。

発達障害児を育てているとどうしても全ての時間を子供に捧げていないと子供にも配慮をお願いしている周りの人たちにも申し訳ない気持ちに陥りがちです。でもそうやって全力を子供に向けて投じてしまっていたらお互いに息が詰まるし、良い状態で子供の前に居られない。あさイチのなかでもモチベーションを保つのが難しい、と画面の中のお母さんが仰っていました。

 

両親が家庭の中を気持ちよい状態に保てるように、そのために自分なりのリセットやリフレッシュの仕方を見つけていかなければ、というのは私も日常的に意識していることです。それを発達障害という言葉が日本ではまだ知られることすらなかった頃から意識していらっしゃった栗原さんのお母さんがあっての、あの類さんの姿なのだなと改めて感じました。

 

また、小児科医の平岩さんが家庭でも導入しやすい褒めかたのコツなどを丁寧に紹介していたり、「焦らないこと」「長く続けられるように楽しく」等補足を入れているところなど好感の持てるシーンは多くありました。というか、VTRが流れるたびにそうやって平岩先生や栗原さんが内容から否定的な印象を持たれないようにと頑張って補っているように見える場面もあったりで、せっかくの特集、せっかくの良いゲストの方々だったのにと残念でなりません。

 

そっと紹介されていたABAセラピストの存在

全体を通して色々なモヤモヤポイントがあり、それは前述のまとめ記事のなかでみなさんが挙げてくださっているので割愛しますが、私が一番ひっかかったのが、後半で紹介されていたおそらくはABAセラピストさんと思われる男性の扱いでした。

VTRの中では、支援学級を勧められていたけれど通常学級にいくことを決めたというお子さんのご家庭が紹介され、その子の学校の様子を参観して来たという支援者の男性が家のダイニングで母親と面談をしているシーンが流れました。

継続してお子さんの記録を取られている様子で、クラスの中でお子さんがどんな様子か、周囲の子たちはどんな反応か、などを話しておられました。

 

その男性はABAの専門家だ、という紹介だけで、どんな資格をもちどこから派遣されてきているのかなどまったくわからないままでVTRは進んで行きました。

 

マンツーマンで学校の様子を見てくれて支援体制を相談できる相手が居る、ということを恥ずかしながらABAセラピーについて無知な私は知りませんでした。Google先生のお導きにより色々と情報を流し見ていて見つけたのが某NPO団体の行う「ABAセラピストの派遣」という事業でした。

 

ABAセラピストの派遣料

驚いたのはその金額です。

 

実際に利用したことがある、やっている人を知っている、勧められたことがある、という声はTLに散見されましたが往々にして皆さん「月10万以上の出費」と書かれていました。「もっと効果を出すためには回数を増やした方が良い」と勧められたという方も。

 

この金額、恐らくはぼったくりではありません。保険の対象でも自治体の支援の範疇でもない状況で、子供1人つき何人もの専門家という大人が丁寧に関わり長期的にABAセラピーを行っていくための適正価格なのだろうと思われます。が、サラリーマン家庭が継続的に出せる金額ではとても無い。

 

取材の中でNHKがそのセラピスト派遣の内情を知らなかったわけはないと思います。(知らなかったらそれはそれでジャーナリストとしてどうだろうかという話で)分かっていたはずなのにあえて金額も出さず、発達障害児とその親が頑張っていくためのひとつの方法として公共放送で全国に流した、そこに一番の憤りを感じました。

 

私が勧められたらどうするだろう

この話をTwitterでしているときにフォロワーさんからある本を勧められました。

リカと3つのルール: 自閉症の少女がことばを話すまで

リカと3つのルール: 自閉症の少女がことばを話すまで

 

 言葉が話せなかった娘のためにABAセラピーに資金を投じた、実話を元にした小説だそうです。この中では父親はクレジットカードが停止するまで支払い続けた、と書かれている、と。

読みたいと思う気持ちもありつつ、読めるだろうかという不安も付いてきました。

実際に私の身近にABAセラピーが受けられる環境があり、誰かに勧められたら。

その環境を与えてあげたいという気持ちと、それを出し続けられないだろう我が家の経済状態と、でもそれを選んでやらなかったという後悔と、どちらを選んでも正解はないような気がして、その怖さに支配されるんじゃないかという恐怖に襲われたのです。

 

祖母の丸山ワクチン、末っ子のアレルギー…

私が産まれる前に、祖母はガンで余命宣告を受けたと両親から聞きました。祖母は私が高校生の頃に亡くなったので、余命宣告から20年近く長らえたことになります。

母が自分の介護の苦労を私に話して聞かせるなかに「丸山ワクチン」の話がありました。余命宣告をされた祖母に残された方法として提示されたのが当時世に出たばかりの丸山ワクチンだったと。母曰く「目玉が飛び出るような」金額だったけれど命には替えられないと導入を決断、そこから「家が建つくらいの」額の医療費を支払った、と。

苦労話なので誇張がかなりある可能性もあるので話半分に聞いた方がよいのかもしれず当時の状況は記録も残っていないので正確なことはまったくわかりませんが、とりあえず両親が好景気にも後押しをされながら相当な金額を医療費の為に捻出して来たのだろうなと。

 

祖母の命と引き換えに提示された高価なワクチン治療…振り返れば今5歳の末っ子が生後まもなく重度のアレルギー体質だと診断を受けたあとに私に勧められた色々な商品や民間療法も安いものではありませんでした。

 

「これを飲めば改善する」「ここに通えば治る」マルチアレルギーで肌がボロボロの赤ん坊を抱えた私にとって「お金さえあればそれが手に入るなら…」と実際にいくつかの商品に手を出してしまったのも事実です。実際にはどれに効果があったのかよくわからないまま医療の手も借りて末っ子は今は少しの除去食と時々の喘息発作程度で他の子と変わらず元気に過ごしています。

 

丸山ワクチンを含めた治療が功を奏したのかはわかりませんが、祖母は余命宣告から20年近く生きることができました。それで、よかったね、で終われば良い話なのかもしれません。少なくとも今の我が家にとっては、それでよかったね、なのです。

 

でもその影には、多くの経済的事情から治療を断念して罪悪感や後悔の気持ちを持つことになってしまった家庭もあったのではないか、とも思うのです。

 

あさイチの特集がやってしまったこと

上記まとめのなかに「ABAセラピーはビリーズブートキャンプみたいなものだ」というコメントがあり、なるほどと膝を打ちました。まとめのなかのツイートでも何人もの方がVTRの中のABAを通した家庭内療育の姿に、子供も親も無理していないか、と心配する声があり、テレビで観たビリー教官の叱咤する姿が目に浮かんでなんだか納得してしまいました。

 

そんな、子供にとって落ち着く場のなさそうな家庭内療育のやり方、そして私が感じたような高額なセラピーをそこに触れず「発達障害児家庭のみなさんが取り組んでいるやり方ですよ」と紹介したこと。

 

ビリーズブートキャンプのような療育に耐えられるだけの親と子それぞれの素養、メンタルの状態、資金などの家庭の状況…色々な条件が揃わなければスタートを切ることすらできない手法を、その内情の丁寧な説明無く「今日から誰でもやってみられる」的に紹介したこと、これがあの番組がやってしまったことだと私は思うのです。

 

私のTLでも、あの番組を見て義理の親や自分の親から「ちゃんと褒めてる?」って聞かれたりするんじゃないか、「あんな風にやればあの子も普通のクラスに入れるんじゃないの?」って言われるんじゃないか、と心配する声は番組終了後からずっと飛び交っています。

 

おわりに

「少しでも改善の可能性があるならできることを何でもやってあげたい」と思っている親はたくさんいます。私もその1人です。私のフォロワーさんのなかにもたくさんいます。でも、現実にはお金や色々な事情から効果は期待できても導入できないものも、探し求めても得られない支援も、たくさんあります。

そして、栗原さんのお母さまが直面していたように、四六時中子供の側で子供のために活動し続けることが最善でもないのも悲しいかな事実です。

 

Twitterでもリアルでも、私の周りにいる多くの支援者の方々は「親が良い状態を保つこと」の重要性をなにより考えてくださっています。親を甘やかせば良いのではありません。定型発達児よりはるかに多くの困難を抱え、日常生活を送るだけでストレスを積み重ねている発達障害児と日々向き合っていくためには親には子供たち以上のストレス耐性が求められます。親自身が特性を持っていることも多いなかで、育児を少しでも良い状態で長期的に続けていくためには親へのケアはときに子供への直接的なケアより優先されるべきものではないかとすら思うことがあります。結果的にはそこに着目することで家庭内が子供にとってより良い環境となり、問題行動の減少や子供の抱えるストレスを緩和することにも繋がるのではないかと。

 

NHKが全国放送で流してしまったあのVTRの内容は、残念ながら親そのものには1ミリも寄り添っていないものでした。平岩先生や栗原さんのコメントがそれを一生懸命補ってくれているようにも感じられ、番宣を見て「録画して家族に見せたい」「周知に繋がれば」と放送を心待ちにしていた発達障害児の親御さんたちの気持ちを思うと悲しくなります。これで終わらずに継続してより良い特集を重ねて発達障害の正確な情報の周知に繋げて欲しい、と願わずにはおれません。

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