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スズコ、考える。

ぼちぼち働く4児のははです。

「母乳で育つとIQも収入も高くなる」という記事に思うこと。

そのときどき こどものこと


 こんな記事が流れてきました。

最近発表された医学雑誌「ランセット」の調査では、1年以上母乳で育てられた子どもは、1カ月間のみ母乳育児で育てられた子どもに比べ、その後の就学年数はより長く、学力テストの点数がより高く、おとなになってからより多くの収入を得られるということが明らかになっています。(参考;上記リンク)

 

記事の中では、ユニセフとWHOでは、このような背景があるにもかかわらず生後半年までの完全母乳率が世界全体で38%に留まること、またその数値を2025年までに50%まで引き上げることを目標としていること、さらにその推進のために今年のテーマを『母乳育児と仕事 – 多くの働くお母さんと赤ちゃんがよりよい人生のスタートを切るために』とし、母乳育児の推進のために、職場の方針強化に向けた支援を行っていることが記されています。

 

必要な支援に繋がるという側面

この記事に書かれているような、母乳育児を望む産婦がその環境を整え易くなるような支援を職場や行政が行うこと、それは発展途上国のみならず日本国内でも歓迎されてしかるべきことなのかな、とは思います。ただ、様々な理由をもとに母乳を与えず(与えられず)に仕事をすることを望む女性にとっての足かせにも受け取られかねないな、とは思いました。

 

母乳に関わる「医学雑誌に掲載された」あれこれ。

ちょっと調べてみた程度で得られただけですが、ランセットという医学雑誌に過去に掲載された母乳関連の論文がいくつか見つかりました。

1970年代中頃、ランセットというイギリスの伝統的な医学雑誌に、母乳哺育は食育の原点であるという内容の論文が出た。母乳を赤ちゃんが飲み始めると、たんぱく濃度はあまり変化しないが、脂肪分とpHが上がるという。したがって、酸味が下がると共にクリーミーな味になることになる。

すなわち、母乳では風味(フレーバー)が変わることを意味し、赤ちゃんに食事の始めと終わりを教えているというのである。人工のミルクではそうはいかない。同じ味なのでどんどんと飲み、赤ちゃんはおなか一杯になるまで続ける。それが、後の肥満症に関係するのであろう。母乳で育てることは、子どもの人生の出発点における食育にもつながると考えられるのである。(【3月】食育は母乳哺育で始めよう - 論文・レポート

 

2008年、医学専門誌ランセット(Lancet)は、母乳育児を受けていない子どもは、完全母乳育児で育った子どもよりも生後6ヵ月間で命を落とす割合が14倍も高いという驚異的な事実を明らかにしました。(20年目の世界母乳育児週間|日本ユニセフ協会|お知らせ

 

このような、母乳育児を受けている子はそうでない子よりメリットがより得られる、という研究の結果はランセットに限らず色々な医学専門誌にたびたび取り上げられていることなのだろうと思います。そしてこれらは、私が最初の出産から今に至るまで、産婦人科での指導や行政から配られるパンフレット類、育児関連の雑誌や専門書籍等いろいろなところで情報源として採用され目にしているものでもあります。

 

「医学雑誌に掲載された」という事実

医学雑誌に掲載された、というふれこみは素人からしたらとても信憑性の高いものと感じてしまうというか、それなら間違いない!というイメージをもたらすものなのかな、と思います。だからこそ至るところで使われているフレーズなのかな、とも。

 

ただ、当該の医学雑誌は過去にMMRワクチンと自閉症の関連についての論文を掲載し、後日それが悪質なでっちあげであったとして論文が取り消されるという失態も起こっているようです。(参考 「アメリカ医療の光と影」医学書院/週刊医学界新聞(第2937号 2011年07月18日)

今回の論文がどうかはわかりませんが、記憶に新しい国内の事件もあります、掲載される=真実、とは限らないのかもしれません。

 

そうはいっても権威がある学術誌に取り上げられるということはそれなりの信頼があるというのは周知のこと。

日本国内で手に入るたくさんの情報の中にも、こうやって「医学雑誌では…」と裏付けがある研究結果として母乳育児を推奨するために取り上げられているのをあちこちで目にします。

 

ユニセフのように世界に目を向けて活動をしている団体、とくに発展途上国の支援を行ってる視点から考えたら、母乳育児を推進していくことの必要性を強く感じて活動に活かしていかねばならない、ということは想像に難くありません。

 

昔観た、南米のドキュメンタリー

最初に紹介した記事で取り上げられていたIQに関する研究が行われていたのはブラジル。ブラジルと聞いて、かなり前にテレビで観たドキュメンタリーを思い出しました。

 

スラムで出産したまだ10代の女の子。赤ちゃんを抱えて飲ませているのは小さな井戸で汲んだ水で作ったミルク。貧困の中でボロボロの哺乳瓶に手に入れたなけなしのミルクを入れて飲ませている姿を見ながら「なんで母乳で育てないんだろう」と思ったのを覚えています。

 

母乳を与えていない具体的な理由について記憶が曖昧なのですが、出ないとかではなくなんとかすれば出来そうだったのにそれをあえて選んでいないという感じだった記憶があります。

同じ南米のベネズエラでは数年前に哺乳瓶を禁止する法案が検討されているという記事がありました。(ベネズエラ議会で哺乳瓶禁止の動き、「粉ミルクは愛を損なう」 | Reuters)母乳育児が可能な状況で母乳を与えている母親は全体の27%程度であり、この背景には海外の企業が粉ミルクの販売を拡大していることが問題視されているようでした。(これはユニセフも指摘している、途上国での母乳育児率が上がらない要因の一つのようです。)

 

私がドキュメンタリーの中で観たのは、汚い水で作られるミルクでした。10代の女の子の抱えた赤ちゃんが健やかに育つための衛生状態や栄養が適切に与えられていたとは思えない環境、その中で、せめて母乳を与えることで死亡率を少しでも高められたら、それが、ユニセフやWHOが問題視し、支援の必要性が訴えられている国際的な問題点なのではないかと思います。

 

ただ、日本でも同じように推進すべきなのか、については疑問が残ります。

 

日本国内で起こりうること、懸念

「医学雑誌に取り上げられた論文」というソースで母乳育児を推進する広報活動、日本国内でそれに出会うのは、前述したような産院でのパンフレットや育児関連の雑誌等多数。それを眺める妊産婦の心理は様々だろうと思います。

 

私は、たいした努力も無く母乳が出る体質でした。でも体質的に出せなかった母からは周囲からたびたびプレッシャーをかけられ姑である私の祖母からいびられ…という辛い過去を何度も聞かされました。そんな母のような体質の方にとっては、どんなに良いものだと並べられても「出来なかった自分」を責められているように感じてしまうかもしれません。

 

ネット上には、赤ちゃんを連れていると知らない人から「母乳?」って出会い頭に聞かれてしまう事、そしてそれがとても辛い記憶になっているという声が何年も何年も繰り返されています。

先日の記事のなかでは、そこに深い意図なんて多分無いよ、ってことを書いたんですが、そんなことわかったとしても、でも「母乳じゃなかった自分」を責められているようで辛い、と感じている方は今も昔も日本にたくさん居るのは恐らく間違いない。

 

そんな状況のなかで、今回のようなIQや将来の年収にまで影響を及ぼすのだという「医学雑誌に掲載された」内容が流布されることで、また追いつめられる気持ちになってしまう産婦さんが増えないか、記事を最初に読んでまずその懸念が浮かびました。

 

冷静に、冷静に。

私の懸念が、杞憂で終わることを願わずにはおれません。

が、妊産婦の周り、どこに潜んでいるかわからない善意のアドバイザーたちがこの情報を得れば恐らくは母乳育児を推進する目的の為に「IQも高くなるし収入も」と言い添えることが出てくるのだろうなと、それは私がこれまで様々な場で前述したような過去の論文が引用されたメディアに接してきたように、きっとこのこともどこかしらで触れられていくのでしょう。

 

でも。

WHOやユニセフが母乳育児の推進を掲げている背景には南米を含む多くの発展途上国が直面している、母乳を与えられるのに様々な理由から劣悪な環境で粉ミルクを使用する事になってしまっている現状があり、それを打破して乳児生存率を上げることが活動の大きな要因の一つであるということ、これらの広報が最初から最後まで全て日本向けに行われているわけではないということ、そして、その研究結果を色々な「善意のアドバイザー」が情報を取捨した上で「自説を補強するために使用しているかもしれない」ということ。

 

それらを踏まえて、落ち着いて、冷静な視点で考えていけたら、と自戒を込めて思っています。

 

過去記事。ご参考までに。

 

補足ですが、医学雑誌ランセットに掲載された当該の論文に関して書かれている記事を見つけました。

母乳で育つとIQも収入も高くなる、ブラジルの大学が研究 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

こちらの記事では

研究は、新生児約3500人の30年の成長を追跡調査したもので、その結果には、母親の社会経済的な地位の影響はほとんど見られなかったという。 

(略)

母乳を与える期間が長ければ、少なくとも30歳になるまで知能の向上がみられることが今回の研究によって初めて示された。さらに、これが教育面での成果や収入獲得能力の向上につながり、個人および社会レベルでも母乳育児の効果がおよんでいることが分かったという。

(略)

母乳が知能に有益な影響を示すメカニズムについてオルタ氏は、母乳に含まれる不飽和脂肪酸の一種、ドコサヘキサエン酸(DHA)による効果だとみている。DHAは脳の発達に欠かせない栄養素。

 という記載があり、論文の中では経済的な背景は影響していないという結論づけがされているようですが、これについてTwitter経由でafcpさんより、ランセットに掲載された原文(http://www.thelancet.com/journals/langlo/article/PIIS2214-109X(15)70002-1/fulltext)では「母の教育歴や出生時の家庭の収入は子どものIQや収入に影響しているが、影響しなかったのは母乳による効果の部分」と書かれているようだとご指摘をいただきました。論文の中では家庭の収入を3段階に分けて統計をとり、どの層でも授乳期間が長い程IQが高くなっていく傾向が見られているようです。

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