スズコ、考える。

ぼちぼち働く4児のははです。

公共の場での授乳に関する投稿から考える、授乳室の現状とそれぞれの事情


TLが騒がしいと思ったら朝日新聞の「声」欄に投稿されていた23歳大学院生の文章が炎上している様子でした。

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これが炎上する理由は簡単なんですよね。

「境界線の逸脱」以上です。

 

不快感の表明、そう感じる人を知ってほしい、で止まらずに、自分の不快感を理由に自分と他人との間にある境界線を超えて、他人の行動を強制しようとしているから反発を食らう。

 

 

でもこれでじゃあ子持ちの気持ちがお前にわかるのかとか対立してもしょうがないので、ちょっと掘り下げてみようと思います。

 

授乳室とは

あの投稿読んでまず思ったのは、この方は多分授乳室に入ったことはなさそうだなぁということ。

 

実際の授乳室はこんな感じです。

 

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母乳を与えるスペースはこんな風に椅子が置かれていて、カーテンで仕切られているところが多いです。

画像のようにドアに施錠ができるタイプのところも稀にありますが、私が実際に訪れた多くは個人が施錠して使用できる空間ではなく複数の人が同時に利用できるよう誰でも立入れる構造になっていたり、個人を仕切るのはカーテンのみ、というところも多いです。

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これもフリーで拾ってきた画像ですが、母乳を与えるスペースの手前にミルクを作るためのお湯やオムツ換え用の台、ミルクを与えるソファなど、男性にも立ち入りやすいくうかんが設けられているところが多いです。

余談ですがこの壁紙、絵本作家の谷口智則さんのイラストですね、いいなぁ…

 

TOTOエンジニアリング株式会社-納入実績 リモデル現場事例

こちらの現場事例の画像がわかりやすかったのでリンクを貼っておきます。

施設の規模にもよると思いますが、母乳を与えるための個室が2つ程度しかないところも多いですし、入り口はカーテン使用で施錠できない仕組みのところがほとんどです。(←ここ大事)

 

実際に利用した場合の想定

我が家のケースだと次男に授乳をしていた頃は長男は2歳くらい、簡単な指示はわかるけど会話が成り立つほどではなく、自力で歩けるしダッシュすればかなりの速度が出る時期でした。

一緒に来てくれる身内がいればそちらに任せて赤ちゃんとふたりで授乳室に入るのが理想だと思いますし、おそらくそういうケースを想定した作りになっていると思われます。

しかし実際には、私が一人で複数の子を連れて行くなど上の子を連れて入らざるを得ないケースもありました。その時に、どうなるか。

 

赤ちゃんと個室に入ります。

カーテンを閉め、ベビーカーの赤ちゃんを抱えます。

座り、服をめくり、母乳を与えます。

 

その間、当然ですが上の子の手は離れます。

今ならスマホで動画を見せとくくらいの工夫はできたかもしれないし、当時もおもちゃを持って入るとか言い聞かせて座らせるとか迷子紐使うとか、それなりの努力はしていたと思います。

が、仕切りはたった1枚のカーテンのみ、脱走されたら乳を出してる自分には簡単に追いかけられない。

 

そして授乳が短時間で済めばいいんだけど赤ちゃんが寝に入るときだったりすると20分近くかかるのもザラです。

そうなってくるとその長時間を狭いカーテンの向こうで過ごすことになる。

 

個室が空いていればスムーズに入れるけど先客がいればそうもいかない。

 

授乳室そのものが抱える問題

ここまで書いてみたら見えてくるかもしれませんが、授乳室そのものには施設としての不備はかなりあると当時から思っていました。

改善があまりなされないのは人生の中で利用する期間が短いこともあるのかもしれません。利用する頻度も出かけた時くらい、どうにも外で母乳を与えねばならない期間も育児期間の中で長くても2年程度とごくわずかなので、改善を求めて動くほどのモチベーションが生まれにくいのかもしれません。

 

でもそれはあくまでも授乳室を実際に利用している人やその中の一部の人にだけ見える話です。

 

「授乳室」があるということ

「声」欄に投稿していた方のようにお子さんがいない人にとっては、「授乳室」というスペースがあるということの意味は私たちのそれとは違っていると考えた方が自然かもしれません。

 

例えば「喫煙室」という部屋があります。

喫煙する人のためのスペースですが、その存在には公共の場所での喫煙が禁止されているという前提があります。禁止する代わりにここでどうぞ、という場所ですが、もしかしたらこの喫煙室と同じようなイメージで授乳室を捉えている方もいてもおかしくないのではないでしょうか。

「専用のスペースが用意されている」→「授乳はそこですべきこと」

という思考の流れになるのかもしれません。

 

授乳がそもそもどこでもしていいことなのか否か、については個人の感覚差が大きい。

 

高校生以上のお子さんをお持ちの方はまだ商業施設などに十分な授乳室がなく車内で授乳したなどの話はよく聞きますし、私も長男が生まれた12年前にはよく授乳する場所を求めて結局駐車場まで行くこともしばしばありました。

 

人前での授乳を避けてなかなか商業施設に行きづらいママ層を取り込むための施設側のサービスが授乳室の普及につながったのかなぁと思ったりしています。

 

「授乳はどこでもしていいという主張」と「それを不快に思う感情」

これ、掘り下げても掘り下げても答えが出ないことなんですよね。

施設側が「授乳は公共の場ではしてはいけません」と明言することも恐らくはできないし、不快に思う感情ゆえに他人の行動を個人が制限することもできないから。

 

対立しても良い結果は産まない。

ネット上でも「子供のいない人にはわからない」という声が上がっていたり、不快に思う方がおかしいんだろうとか、いろんな不穏な意見が飛び交ってる。そんなの飛び交う中で、でも実際はリアルの世界の中でみんな共存していくしかないわけで。

 

じゃあどうすればいいんだろうっていうと、折り合うしかないんです。

 

公共の場で授乳するのに驚いたり、それを不快に思うのはだれに制限されることもない自然なその人の感情だと私は思います。

嫌なものは嫌だ、それは仕方ない。

でもその感情を理由に「お前が変われ」とは言ってはいけないんです。

 

公共の場で授乳せざるを得ない環境になってしまうのも、仕方ない。

でもその仕方なさを理由に、不快に思う方が悪い、「お前が変われ」とは言ってはいけないんです。「子供がいない人にはわからない」は子持ちが絶対に口にしてはいけない伝家の宝刀みたいなもんです。それを言ったら、共存はできない。

 

「お前が変われ」は自分と相手の間にある境界線を超えた行為、いろんな人間関係のトラブルの根っこにこれが存在することは多いなぁと思います。

 

どちらも仕方がないことだから、それでも共存せざるを得ないならお互いが少しずつ譲るしかない。

 

どうしても不快に感じるなら(授乳するような年齢の母子連れがこないような)違う職場を選ぶ自由も恐らくは投稿者さんにはあります。

授乳室の中を知ったり、母子連れの現状を察したりすることで少し気持ちを寄せることができるかもしれません。

投稿欄やネットなど発言の場で「不快に思う人もいることは知っていてほしい」と声をあげることの意義もあると思います。

 

どうしても授乳せざるを得ないなら、店員さんに一言声をかけたりするような、気を使う態度を見せるだけでも相手の心象は変わってくるかもしれません。

相手がそれを不快に思う人かもしれない、という想定を持って動くことでコミュニケーションはもっとうまくいくかもしれない。

 

おわりに

ちょうど良いタイミングでこんな記事が出ているのを見かけました。

【初詣ベビーカー論争】ベビーカーについて良く知らないから、押しながら都内を歩いてみた | SPOT

 

この記事では10キロのお米袋を赤ちゃんに見立ててベビーカー体験をしています。

本当に子育てをしたことのある人ならお米では本当の苦労はわからないと思うと思います。本物はこんなもんじゃない、動くし泣くしオムツ替えのタイミングもこちらの都合どおりにはいかない。

でも、そのリアルとの距離はあまり問題ではないと思うのです。

 

経験してみよう、どんなものか覗いてみよう、自分からこちら側に近寄ってみようという意識を持ってくれていること、その姿勢がとてもいいなと思いました。

 

不快に感じる人にもその人のなりの背景がきっとあると思うし、それをそうでない人が理解するのは簡単なことではありません。でも、何かあるのかもしれないとこちらから少し歩み寄ることはできる。

 

自分の頭の中の結論で「相手が悪い、おかしい」で止まらずに、向こう側にはそれなりの背景や都合があるのかもしれないと近寄ること、それをお互いが意識することで適度な距離を保ちながらいろんな人が共存していけるのかもしれません。

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