スズコ、考える。

ぼちぼち働く4児のははです。

ベビーカー論争に潜むものについて考えました。


ベビーカーがまた話題になってましたね。
子どもらの通院やらあれこれで数日あたふたしていたので眺めながらもなにも書けずにおりました。

もう旬のトピックも「ノーベル賞」にかわったし、ちょっと出遅れた感もあるのでトピシュさんも仰るようにこのままスルーしてもいい話題なのかなぁと思ったのですが、昨日ちょっと遠出して移動中にぼんやり考えてる間に色々と考えたりもしたので書いておこうと思います。


ベビーカー論争の根底に有るもの。
それは何か、ということについて。

 

一昨日か昨日か、「またハーネスのときと同じ結論に至りそうだからノーコメント」と自らツイートしていたのでそれを覆すようで恐縮ですが、私が至った結論としては似ているようでやや違うところへ帰着しました。

 

ハーネス論争についての私の言及はこちらをご参考くだされば幸いです。

結局、ハーネスとかどうでもいいんですよ。 - スズコ、考える。

 

結局「対象が何とか関係なく誰かを叩きたいだけでしょ」と思うに至ったのですが、このベビーカーについては状況がやや違うなと感じました。異なっているのは、声を上げている人の多くが「実際に自分が迷惑を被ったと思っている」点です。

 

ぶつかられたなどの直接的な被害に加え、満員電車のなかで自分のスペースがより狭くなる・通行の妨げになるなどの間接的ではあるものの自分の利益を害されるような意識が芽生えて苛立つ結果を招いている経験が有る、その経験が有る上での非難である方が多いのではないかと感じました。

 

それらを踏まえて至った結論をまず掲げたいと思います。

 

ベビーカー論争の根底にあるもの、それは「都心部の人口過密」に他ならない。
これ、実は以前のベビーカー論争について書いたエントリのコメント欄でid:kiya2015さんにご指摘頂いたことなんです。
当時はそういう側面もあるのだけどそれだけでは無いような気がしていたのですが、掘り下げて考えるにそれは側面ではなくやはりkiyaさんの仰るとおり根っこのなかの根っこのような気がしてきました。(※kiyaさんその節はありがとうございました)

 


東京では当たり前の日常過ぎて取り上げることもくだらないかもしれない。
でも、これこそが原因であり、逆に言うとここを改善しない限りこの論争は絶対に終結しない。絶対に。


私たちは乗客として、どの時間帯にどの路線のどの車両に乗ろうとも鉄道会社の規定に反していないものであれば持ち込む権利が有ります。
それが車いすであれ、ベビーカーであれ、旅行用のトランクであれ、大きな楽器であれ、ペットであれ。

 

その権利を行使しているのになぜか、ベビーカーは非難の対象になります。


満員電車には乗り込まないとかだっこして畳めとか、そういう誰が作ったのかわからないローカルルールを遵守する声があがり、その誰が作ったのか分からないマナーを守らないと叩かれても仕方ないという声が上がる。

 

じゃあなぜ車いすで同じことが声高に言われないのか、それは「社会的弱者」という常識が浸透しているからではないでしょうか。社会的弱者として守るべき存在を声高に叫ぶことは己の価値を下げると分かっているからです。


ベビーカーに対してそれがまかり通るのは、その「社会的弱者だから庇護すべし」という考え方がまだ充分に浸透していないから、というのが現状だと思います。

 

この点に関しては、10年前より、5年前より、少しずつ少しずつ意識が変わっていっているのだろうなと思います。育児に携わる父親が増え、メディアで取り上げられる機会が増え、だんだんとベビーカーに優しくしないのかっこわるい、という風潮は出ているのを感じます。浸透していく途中、過渡期なのだろうなと。

 

それと、障がいのある方とは違って健全な幼児を健全な親が連れている可能性もあることが「だったらなんとかなるだろ」と思わせる要素にもなっているのかもしれないなと思います。

 

だからこその、あの炎上記事のライターさんのような「とりあえず笑顔で助けて上げるけど腹の中では「おんぶしろよ」って思ってるよ」なんていう上っ面だけいい人ぶっておいて文字にして叩くという中途半端な善意を振りまく人が出て来ちゃったりするわけですね。

 

浸透していけば車いすみたいにみんなで支えましょうっていう空気になるんじゃないの?と思われるかもしれませんが、それは多分無いです。

車いすよりベビーカーの方が圧倒的に数が多く、上記のように通りを妨げられたり実際にぶつかられたりする被害は確実に日々起こっていくし、育児にあまり関わっていない方による「なんとかなるんじゃないの?」という妄想は起こり続けるからです。

 

ある程度浸透していけば、少なくともネット上で声高に非難する人は減るでしょう。
それが非情で格好悪い行為であるというのがネット上の常識となれば声高に叩く声は減る。


そしてくだんのライターさんのように表面上いい人ぶる人も増えるかもしれないので今よりよい状況になっていく可能性は高いです。

 

ただ。

 

それはじんましんが出たから薬を塗ってとりあえず抑えたように見えるのと同じ。

匿名で叩く人は減らないだろうし、表立って言えないだけで不満を募らせる方も減らないかむしろ増えるかもしれない。

根っこの部分は何も解決していないからです。


大事なのは「なぜベビーカーに苛立ってしまうのか」ということ。
妖怪のせいにする子どもに苛立つお母さんと同じなんです。
子どもが悪いからじゃない、苛立つお母さんそのものに要因が有るのではないかと思うのと同じで、苛立つその人そのものの問題、その人がなぜ苛立っているのか、なぜそこで苛立つ人が多いのか、という問題です。

 

ベビーカーの問題がもっとも顕著な電車という乗り物の環境を考えてみて下さい。
狭い車内、時間に追われた大勢の乗客、その中に疲労のなか押し込まれる、その状況で、思いやりとか助け合いとか生もうと思うことにそもそも無理があるのではないのかなぁと思うのです。

 

狭い教室のなかでいじめが起こりやすいのと同じ、狭い水槽のなかで魚同士が小競り合いをするのと同じ、狭い環境で過密の状態にされれば誰でも感情は高ぶり、苛立ちやすくなるのは当然なのですよね。育児に疲れたお母さんが些細な事で苛立つのととても良く似ていると思う。

 


その環境が「都心の当たり前の日常」になっていることこそが、この問題の根底にあるのではないでしょうか。


狭い電車や狭い通路でイライラカリカリして余裕が無い状態、それこそが、ベビーカーに対する批判の根っこにある。通勤までの時間の余裕や、スペースの余裕、疲弊の緩和があれば、多分これほどまでに批判は募らないのではないかなと。

 

事実、東京などの都心部以外ではベビーカーを叩く声ってそう大きな議論になり得てないような気がします。かつて大阪の御堂筋線に乗って通勤していたときも一時的なラッシュは確かに有りましたがベビーカーが邪魔だと思った事は一度も無かったし、それでもめている話も聞いた事は無かったです。私の知識不足かもしれませんが。

 


都心の過密な状況、殺人的な満員電車が、今直ぐ誰かの手により解決するという事はあり得ません。
あり得ないから、ばかばかしすぎて誰も言葉にはしないんだろうなと思います。

でもあえて、わざわざ書きました。

 

それは「ベビーカーが悪い、ベビーカー利用者が悪い、いや悪くない」という上澄みだけを論議しても絶対に終わりは来ないと思うからです。

言い合っているうちに少しずつでも状況は変わるかもしれない、でも、やっぱりこの根っこにある人口過密がある限り繰り返され続ける。

 

上澄みを議論して少しずつ良くなるかもしれない、でも、このベビーカーの問題もそうだし、痴漢や痴漢冤罪の問題や女性専用車両についての議論、子連れのマナー等々、過密状態が引き起こす社会問題はいくつも有り、そしてずっと噴出し続ける。

 

教育環境の改善なしにいじめゼロを訴えることがバカバカしい絵空事であるのと同じように、この異常な過密状態がある限りどんなに理性や思いやりや知性に訴えても、これらの問題は無くならず残り続けるような気がしています。

 

東京という都市の風土病みたいなものなのかもしれないと。

簡単にかえられなくても、思い続けるだけでも、一人でも多くの人が意識するだけでも、じわじわとかわって行くのかもしれない。
そして、要因がそこにあるのかもしれないということを頭の隅においておくだけでも無駄な矛先を恨む必要が無くなる人もいるのではないかなと、細やかながら願っています。

 

 

余談ですが、「ダーリンは外国人 with Baby」というコミックエッセイで小栗左多里さんがNYに子連れ旅行したときのことを書かれていて、その中ででっかいバギーを押す女性に「それは地下鉄に乗る時は畳むの?」と聞くシーンが有ります。

女性は「このままよ、だって誰かが助けてくれるから」と答える。

小栗さんの感想として「確かに海外に行った時はみんなが親切ってわけじゃないけど「とてつもなく親切な人」にときどき遭遇して助けてもらえる」と書かれていました。

 

この感じ、私もなんか分かるような気がします。

海外に行ったときや日本の地方でも感じたことがあるんですよね。

この「とてつもなく親切な人」の存在がそう多くないこと、多くなれないことも、日本の都心部の特徴の1つなのかなぁとぼんやり考えたりしています。

 

ダーリンは外国人 with BABY

ダーリンは外国人 with BABY

 

 

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