私の本棚の一番取り出しやすいところに並べてある本の中のひとつに、こうの史代さんの漫画「この世界の片隅に」があります。上下2冊のこの本は、私にとっては戦争ものを描く作品に対する印象をがらっと変えたものでした。
それまで見て来た戦争や原爆を取り扱う作品では描かれている人たちがどこか8月15日に何が起こるかを知っているような、現代人の戦争に対する価値観と同じものを持ってる人がたくさんいるような、そして清く気高く生きている人たちを犠牲にしたような、そんな作り込まれている感、より悲惨なものに見せようとするような意図が見え隠れするものも多く、見ていて辛くなるものもたくさんでした。
でもここに描かれていたのは、当たり前に生きている普通の人たちで。
戦争と切り離されている訳ではなくまっただ中で生きているのだけど、でも私たちと同じように笑ったり怒ったり泣いたりしている主人公のすずたち。当たり前の日常の中に戦争があっていたのだという、当たり前の日常のなかに当たり前に生きられなくなった人もいたのだという、その現実を描くことに徹しているのだろうなと、こうのさんの描く世界に一気に惹き付けられました。
そんな思い入れ深い作品がアニメ映画化されると聞き、しかもクラウドファウンディングで資金を集めていると知って、早速参加してきました。
目標金額は達成しているようですが、継続して資金を募っているようなので興味がおありの方は是非に。
んで、なんで戦艦?ってとこです。
この映画のプロモーションとして作品内にもちらっと登場する戦艦青葉がどーんと描かれたポスターが作られているんですね。これとても素敵なポスターなので是非とも手に入れたいと画策中なのですが(笑)ただふと思ったんです。
作品の中で私にとっては青葉を含む戦艦って、作品の中に少し出て来た程度のイメージしかなかったので、なんでこんなに大きく扱われてるんだろう、もしかして艦これのファンを取り込む為の作戦?だったら原作のファンとしてはちょっと複雑な心境だなぁ…と思っちゃってそれを夜中にぶつぶつ呟いていたのです。
そしたら翌朝、片渕監督ご本人からお返事が!!
@suminotiger 原作で水原哲が、またしても大したことしなかった、と語っている以上に青葉の傷は深く、甲板を海水が洗うくらい沈みかけたところからなんとか呉に帰りついています。右傾斜、4つのスクリューのうち右2つが動かないまま、休山の手前まで帰ってきたところを絵にしました。
— 片渕須直 (@katabuchi_sunao) 2015, 3月 25
@suminotiger なので、軍艦をスケッチするすずさんと、青葉は左右に並べて一組のつもりでデザインしています。
— 片渕須直 (@katabuchi_sunao) 2015, 3月 25
原作の中では主人公すずの幼なじみの哲さん(戦艦青葉の乗組員)が「負傷したけど漸う入港した」「沈没も活躍もせずじまい」と表現していた青葉の実情まできちんと調べていらっしゃるということ、また映画を支援している方から、監督が呉の軍港に入港していた戦艦すべての入港日時や停泊場所などをリストアップして製作に臨まれていると教えていただき、何気なく読み飛ばしていたシーンにも深い下調べと検証が積み重ねられているのだと驚き、また無知を恥ずかしく思いました。
朝の短い時間でしたが原作の上巻をざっくり読み返したら、呉の港を見下ろすすずと夫の周作さん、軍艦の名前を一つずつ挙げているところに入港する世界一の軍艦、戦艦大和の姿とそれに驚くすず。改めて読み返すととても素敵なシーンでした。
監督さんの姿勢、調べていらっしゃるたくさんの資料の画像などもクラウドファウンディング関連のページから見ることができます。戦艦だけでなく映画の舞台となっている街並みや時代考証…おそらくはこうの史代さんの原作そのものにもたくさんの調査があったんだろうなと、それ故のあのリアルさだったんじゃないかと、そんなことも考えさせられました。
片渕監督のブログ(1300日の記録[片渕須直] | WEBアニメスタイル)からもその徹底した姿勢をかいま見ることが出来(膨大すぎて全ては読めていませんが…)どんな映像になるのか今から楽しみで楽しみで。
映画の公開予定は2016年、それまでに原作をまた何度読み返すことになるのかな。
ちらっと読み返したページには青葉や大和以外にも、私があまり興味が無かったが故に見逃していた戦艦の絵がたくさんあって、改めて、戦艦の姿を意識しながら全ページ読み返してみたくなりました。

この世界の片隅に コミック 全3巻完結セット (アクションコミックス)
- 作者: こうの史代
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