スズコです。今年もよろしくお願いいたします。
相変わらず適当な更新ですが今年もよろしくお付き合いくださいませ。
さて、新年最初になった今回は数日前からTwitterで話題に上っている「障害者手帳による割引」についてまとめてみようかと思います。
件の内容について議論したり是非を問うたりする意図ではありません。
このブログにも何度も登場している次男、間近に迫っている自立の日を前に働き方を考えるにあたって手帳を取得する方が良いかどうかも合わせて考えていくことになる予定です。今回話題になっている中で、手帳に関して自分の知識も足りてないなぁと思ったため、調べて書き残しておきたくなったのです。
私の備忘録という形になりますし、なにせ慌ただしい中で調べたこと。
本来なら文献を丁寧にあたりたいところですが、オンラインで得られる資料からの引用が主になります。
引用元の正確性までは確認が取れておりませんので、もし誤りがあった場合はご指摘いただけたら助かります。
障害者手帳とは
まず、「障害者手帳とは何か」を確認しましょう。
障害者手帳は、身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の3種の手帳を総称した一般的な呼称です。
制度の根拠となる法律等はそれぞれ異なりますが、いずれの手帳をお持ちの場合でも、障害者総合支援法の対象となり、様々な支援策が講じられています。
また、自治体や事業者が独自に提供するサービスを受けられることもあります。
それぞれの手帳の根拠となる法律や障害の分類などは上記リンクの厚生労働省のサイトをご確認ください。
今回まとめようとしているいわゆる「障害者割引」は、上記引用の中で触れられている、障害者手帳保持者に対する「自治体や事業者が独自に提供するサービス」のことになります。
障害者割引の歴史
障害者割引はどのような経緯で導入されていったものなのかを確認するために、その歴史を紐解いてみます。
障害者割引の歴史についてはこちらに掲載がありました。
日本の本格的な障害者施策は、戦後から始まりました。
当時、主な対象となったのは傷痍軍人※。※傷痍軍人(しょういぐんじん)…戦争や公務によって負傷した軍人のこと。
そこから、1949年に身体障害者福祉法、1950年に精神衛生法(のちの精神保健福祉法)、1960年に精神薄弱者福祉法(のちの知的障害者福祉法)などが制定されました。
(中略)
そして、身体障害者福祉法の制定と同時期に国有鉄道運賃法が改正され、傷痍軍人だけでなく、一般の障害者も対象とした割引が始まりました。
上記リンク先に掲載されていた調査資料「公共交通における障害者・高齢者運賃割引制度 ―日英の取組―(高峯 康世)」(https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_10310079_po_20170209.pdf?contentNo=1)によると障害者割引制度のスタートは国鉄による、国主導のもののようです。
【鉄道】
昭和24(1949)年の身体障害者手帳の交付に伴い、同法の附則によって国有鉄道運賃法(昭和23年法律第 122号)が改正。介護者を必要とする身体障害者が乗車する際に両者の運賃を半額とする旨の規定が追加。
昭和27(1952)年に国鉄は「身体障害者旅客運賃規定」を制定し、障害の等級による区分を設け、100km を超える場合の単独乗車の割引を認めるなどの変更。
国鉄分割民営化後の平成3(1991)年には知的障害者(療育手帳・愛の手帳保持者)が割引対象に加えられていますが、この背景には親の会による働きかけが強くあったようです。
(育成会は運動を続けています - oyanokai-tanashi ページ!)
【路線バス】
平成3(1991)年に知的障害者が、平成24(2012)年に精神障害者が対象に加えられています。
【タクシー】
平成13年に、身体障害者・知的障害者について、運賃の 1 割を割り引く旨が規定されています。
精神障害者は、被爆者・戦傷病者とともに「事業者の申請に基づき個別に設定するものとし、割引率は 1 割とする」とされ、身体障害者・知的障害者と違い、任意の扱いとなっています。
【航空】
さまざまな障害者割引制度
各事業者の割引制度の詳細については、上記のサイトに詳しく書かれています。
前章で歴史を紐解いた交通事業者だけでなく、美術館や博物館などの公共施設、ホテルなどの民間施設、映画鑑賞やNHKの受信料など、さまざまな事業者が障害者割引の制度を取り入れていることがわかります。
そもそも障害者割引とはどんな仕組み?
障害者割引とは障害のある人が暮らしていく上で受けられるさまざまな割引のことを「障害者割引」と呼んでいます。障害のある人の経済的負担を軽減することにより、社会参加を支援する仕組みです。障害者割引は何のためにある?障害者割引は、障害のある人の暮らしを支えるためのサービスです。障害のある人の場合、通常より生活や移動するコストがかかることがあります。例えば車で移動しなくてはいけなかったり、介助者が必要だったり、そのことで外出やレジャーなどの社会参加へのハードルが高くなってしまうことがあります。割引制度はそのハードルを下げ、障害者の自立と社会活動への参加を支援するために設けられています。
元々国鉄という国営企業で国策として始まったものだけに公金による制度と勘違いされやすい仕組みなのではないかなと思うのですが、その後の変遷から制度の担い手は「各事業者」であり、またその広がりには「親の会」などの当事者の声が大きく影響を与えているのがわかります。
リンク先も含めてここまで読んできて気づいた方もおられるかもしれませんが、ここまで紹介してきた中で「割引を受けられる障害者」の中に「精神障害者」が含まれている割合は非常に低くなっています。
この課題に関して日本弁護士会が昨年6月に意見書を出しています。
この中で各種障害者割引の中に精神障害者が含まれないことについて「国は各事業者に精神障害者も加えるよう理解と協力を求めてはいるけれど事業者は消極的」であること、また「割引制度に対する国の補助金等の制度は存在せず」「法的拘束力を持たない通知によって、事業者に対し、理解と協力を要請したり、通知の発出によって事業者が導入した割引制度を周知したりする等の支援にとどまっている」と指摘されています。
障害者割引制度を支える事業者負担
こちらのまとめサイトでも色々な声がありますが、ドライバーの負担ではない事業者もあるものの「事業者の負担」であることは間違いない話です。
個人タクシーであれば事業者=乗務員なのでドライバー負担ということになりますし、タクシー会社の雇用形態には固定給ではなく歩合制(売上に応じて賃金が支払われる仕組み)のところも多いため、障害者割引を適用させた売上しか計上されない場合はドライバーの負担も発生するということになります。
まとめサイトでは「だから乗車拒否をするタクシーがあるのだ」と糾弾する声もありますし、乗車拒否は擁護されることではありませんが、そもそもの仕組みの成り立ちなど歴史的変遷から紐解いていくと「国が割引の権利を保障しているような種類の仕組みではない」ということ、また「障害者を支援しようという事業者(現場で働く人を含む)と適正な料金を支払う利用者の善意のもとで成り立っている仕組みなのでは」と感じます。
(そういう意味ではタクシードライバー自身にも「仕組みを成り立たせている立役者の一人である」という自覚も必要なのでは、とも思います。)
ちなみに、各事業者にどのくらいの負担が生じているのかについての記載を一つ見つけたので紹介しておきます。
なお、この障害者割引制度は、市町村が費用を負担する福祉タクシー券等による割引とは異なり、タクシー事業者の負担による公共的割引である。任意で集計を行っている東北5県 (山形県を除く。)のタクシー協会(以下「協会」という。ハイヤー協会を含む。以下同じ。) 加盟事業者における割引負担額は、平成29年度で約2億8千万円となっている。(総務省|東北管区行政評価局|行政相談を契機とした「タクシーの障害者割引適用時の適正対応に関する調査」の結果に基づく公表について より)
決して少ない額ではない事業者の負担があるこの障害者割引の仕組みに関して、弁護士会の意見書の中でも「国からの補助金等の制度」が強く求められています。
国からの協力依頼はあっても、その仕組みを支えているのはあくまでも各事業者です。そして、その各事業者のサービスの運用を支えているのは労働者や事業者に料金を支払っている利用者であるのが現状だということはおさえておかないといけないのかなと思います。